2024年10月6日日曜日

追悼 小林郁雄先生

 4日の金曜、小林郁雄先生が亡くなられたという訃報を、同僚の先生から教えていただいた。以前、ご病気という話は聞いたことがありましたが、その後、回復されたのだと思っていたので、突然のことに思わず「えっ!」と大きな声が出てしまいました。

小林先生とは、阪神・淡路大震災直後の復興まちづくりのイベントで出会ったのが最初で、その後、全国街並みゼミやコンサルタント時代の兵庫県の住宅土地統計調査の業務、そして人と防災未来センターで上級研究員として、兵庫県立大学の特任教授として、また立場とは関係なく復興まちづくりやコンサルタントとしての地域や研究者としての関わり方について、折に触れて教えていただいてきました。

決して「密に」と言えるほど深い関係ではないのですが、阪神・淡路大震災の後から、若い世代にも気さくに声をかけていただき、当時、大学の研究者のスタンスに疑問を持っていた私としては、実務者として被災地を支えるという姿から学ばせていただいていました。都市計画やまちづくりの分野から、少し離れてしまった私のような研究者にも、本当にいつもあたたかく声をかけて下さいました。

研究者の方が、わりと理念とか自分の考えに引きずられる中で、小林郁雄さんは、現実をズバリと言って(自虐というか皮肉も込めて「都市を安全にしたのは、地道なまちづくりでなく、地上げかもしれんよ」とか)、実践的・客観的に地域の現実を見るという点では、研究者よりも納得させられることが多かったです。
(この辺、方向性は真逆なのですが、林春男先生にも似たものを感じています)

また大学に所属していなくても、大学の先生以上に多くの若手の研究者に影響を与え、育てられた人でもありました。大学の研究者のようになっていく実務者の方もいる中で、コンサルタントという仕事(いかに割が合わない仕事かというようなこともおっしゃっていましたが)への誇りやこだわりと、大学の研究者への批判・注文も感じられました。

まだまだショックが大きいのですが、小林郁雄先生のことを振り返りながら、自分として何を受け継ぎ、何ができるのか、考えてまいりたいと思います。

これまでのご厚意に感謝し、心よりご冥福をお祈りいたします。

2024年8月1日木曜日

最近の私の研究テーマ

 オープンキャンパスもありましたので、受験を考えている人向けに、最近の私自身の主な研究テーマについて、少し説明いたします。
(非常勤をしている静岡大学防災総合センターの年報用に書いた原稿を修正したものです)

 主な研究テーマは、企業、自治体などの災害対応やそのための計画、訓練に関する研究です。

 企業に関しては、中小企業強靱化法(2019年)に基づく事業継続力強化計画認定制度という比較的新しく創設された仕組みに着目し、その策定プロセスや支援体制に関する実態調査を行いました。事業継続力強化計画には単独型と連携型の二種類があり、特に連携型は、中小企業どうしの相互の助け合いを推進する狙いがあり、その効果や普及状況に注目しています。現在は、単独型でも連携型でも策定によるインセンティブが同じなので、連携型に取り組んでいるのは、防災への意識が高い企業が中心です。連携型に取り組むことによるメリットを政策的に作り出していくことが求められています。これらの研究成果は、兵庫県からの派遣学生の駒田さんという方が、大変素晴らしい修士論文としてまとめられました。現在、査読論文として執筆中です。

 自治体に関しては、被災した市町村に対して、所管する都道府県がどのような人的支援を行ってきたかに注目し、河川情報センターやひょうご震災記念21世紀研究機構の助成や科研費を得て研究を行ってきました。都道府県によって、被災市町村への人的支援状況には違いがあります。上手くいった事例としては、令和2年7月豪雨の熊本県があり、被害発生直後から部長級をトップとする支援チームを派遣しています。単にリエゾン(情報連絡員)やマンパワーとなる職員を派遣するだけでなく、幹部職員をトップとするチームを、速やかに派遣する重要性が明らかになりました。この研究成果を公表した論文「水害被災市町村の応急対応に対する当該都道府県による人的視点の役割」(地域安全学会論文集 No.41)は、2022 年地域安全学会年間優秀論文賞をいただき、成果をまとめた報告書は、47都道府県および総務省、内閣府(防災)に送付いたしました。

 企業や自治体以外にも、高齢者介護施設における業務継続や大学における留学生への防災対策についても研究に取り組んでいます。これらはゼミ生が関心を持っていて、研究に取り組み始めたのですが、組織の形態は異なっても、初動対応やそのための体制・準備については共通点が多く、横断的に見るからこそ明らかとなるポイントがありそうです。大学については、文科省のスーパーグローバル大学創成支援事業の採択大学にアンケート調査をしたのですが、受け入れた留学生への防災対策は、日本人学生に比べて不十分であり、自分の大学を含めて、「隗より始めよ」の言葉を痛感いたしました。留学生向けの防災力確認テストのサイト(https://forms.gle/UAxoZG8Xnz1HUTZMA)も実験的に作成してみました。回答すると正解と解説が見られますので、よろしければお試しください。

 なお、ゼミ生の方には、(教員がテーマを与えるのではなく)自分で研究テーマを見つけてもらいたいと考えています。社会学系の大学院では、「自分で社会の問題を発見する力」を育てることが、目標の一つだからです。結果的に、学生の研究テーマが私の専門と異なっていても全く問題はありません。この辺りは、研究室として成果を蓄積させ、学問を掘り下げていく分野とは異なっているところです。

2024年7月30日火曜日

オープンキャンパス

休日ではありますが、7月28日(日)、神戸防災キャンパスにて、減災復興政策研究科のオープンキャンパスを開催いたしました。

例年を大きく上回る大勢の方にご参加いただき、会場は大盛況でした。暑い中、会場に足をお運びいただいた皆様、ありがとうございました!

災害が多発しており、関心を持っていただける学生の方が増えていること、そして県立大の学費無償化が追い風になっているように思います。
学生の皆様の期待に応えられるよう頑張らなければと、改めて強く感じました。

また、例年は、一人一人の方とじっくりお話できたのですが、今回は十分に対応できなかった方もいらっしゃるかもしれません。

オープンキャンパスで物足りないこと、十分に質問できなかったことがありましたら、遠慮なくメールなどでご連絡ください。

2024年7月3日水曜日

「想定に頼らない防災対策を目指して」を寄稿しました(ほくとう総研機関誌NETT)

 ほくとう総研機関誌「NETT」に、
 「想定に頼らない防災対策を目指して」
と題した原稿を掲載していただきました。


こちらからpdfがみられます。結構、がんばって書きましたので、ぜひご覧ください。
https://www.nett.or.jp/nett/

(しばらく経つと、バックナンバーの方に移動すると思います。「第125号:特集:大災害を超えて」です)
https://www.nett.or.jp/nett/bn.html


こちら、東日本大震災の後、東北大学の丸谷先生との研究会でお世話になった政策投資銀行の方がほくとう総研で働かれており、原稿を依頼されたものです。

「好きなテーマで書いていいですよ」という大変ありがたいお話だったので、お言葉に甘えて、以前から一度きちんと整理しておきたかったテーマで書かせていただきました。


私のゼミのドクターの学生が、「オールハザード」や「マルチハザード」というキーワードを研究計画に入れていたのですが、県立大の先生でも、あまり理解していただけてなかったので、これはちゃんと説明しておかないといけないと思ったのが理由の一つです。


そしてもう一つの理由は、やはり令和6年能登半島地震です。
もう本当に「想定外」や「想定を超えた」を、災害対応が上手くいかなかった理由にするのは辞めましょう。
そして、ハザードだけでなく、地域や組織のぜい弱性に、災害前から目を向けるようにしましょう。


ハザードが専門の方には睨まれるかもと思いながら書いたのですが、「敵を知る」だけでなく、「己を知る」ことの大切さが、少しでも伝われば嬉しいです。


2024年7月2日火曜日

環境人間学部に建築学科ができる!? (第2回大学・高専機能強化支援事業選定)

少し前になりますが、6/26に記事になっていた以下の事業で、兵庫県立大も対象になっていました。

第2回大学・高専機能強化支援事業選定 「デジタル」「グリーン」を両方使用した学部学科が5つ
https://univ-journal.jp/246052/?cn-reloaded=1


こちらが文科省のpdf資料です。
https://www.mext.go.jp/content/20240624-mxt_senmon01-000027827.pdf

兵庫県立大学社会情報科学部/環境人間学部グリーンサイエンス学科、建築学科、食環境栄養学科(※)  (※は、既存組織の定員増を含む取組)


兵庫県立大学は、今年で創設20年目ですが、改革に熱心な大学で、かなり部局構成が変化しています。

私の勤務する減災復興政策研究科は2017年新設。他にも、2011年シミュレーション学研究科、2014年地域資源マネジメント研究科2021年の情報科学研究科(シミュレーション学研究科、応用情報科学研究科)、社会科学研究科(経済学研究科、経営学研究科、会計研究科、経営研究科)、理学研究科(物質理学研究科、生命理学研究科)、国際商経学部・社会情報学部(経済学部、経営学部)があります。

(記憶ベースなので、見落としがあったらすみません。)


他の近隣の国公立大学の部局構成が、この20年間、あまり変わっていない状況をみると、これはかなり珍しいケースです。母体である県の意向があったり(減災復興政策研究科は当時の井戸知事のご意向)、決して大きい大学ではないので、トップダウンのガバナンスが効きやすいのもあると思います。


国際商経学部や社会情報学部の人気をみると、時代に合わせて変化していく大切さを感じます。一方で、同窓会の結束や伝統を考えると、継続性・一貫性も大切で、バランスを取る難しさも感じます。


さて、先ほどのニュースだと、環境人間学部は、副専攻「防災リーダー教育プログラム」に、学生の方が多く参加してくれたり、防災についてのフィールドワークで講義を担当したりと、個人的につながりが強い学部です。
(大学院の研究室の先輩のU先生もいらっしゃいますし)

元々建築学科出身の私(一応、一級建築士)としては、新しく「建築学科」ができるのは、ちょっと気になり、楽しみにしています。

 

2024年6月23日日曜日

今年度は「論文本数派」に転向?

研究者の評価には、いろいろな指標があります。

ある先生からは「研究者は、最高の論文のレベルで評価される」と言われたことがあります。量より質、という考え方です。ノーベル賞などをイメージすると分かるとおり、アカデミックな観点からは説得力がある考え方です。

また防災という人の命や生活に関わる研究をしていると、「実社会の役に立つ研究(被災者の命や生活を救う研究)」こそが素晴らしいという考え方があります。実践的研究を標榜する「人と防災未来センター」で働いていた私は、このスタンスに一番近いです。

一方で、教員評価とか教員公募だと「(一定レベルのジャーナルへの)査読論文の本数」が、よく使われます。安定的に論文を出しているということは、きちんと研究をしているエビデンスになります。また、論文本数という数値は、知らない分野の研究者でも「比べやすい」というメリットがあるのでしょう。


で、自分自身の話になりますが、東日本大震災の後頃から、サボってあまり論文を書いていませんでした。幸いなことに、就職が何とかなってしまったこともありますし、調査で自分の好奇心が満たされると満足してしまって、その後の外部への発表は後回しにしてしまう性格的なものもありました。いや、もう反省と言い訳でしかありません。


ところが昨年度、論文の本数について、いろいろとご意見いただき、考えることがありました。「論文の数で研究者を評価する人が結構多いんだな」とか「論文が少ないと、なかなかひどい言われようをするのだな」と実感することがありました。
学生に対しても、ちゃんとお手本にならないと。。。

ということで、今年度は「論文本数派」に転向というか魂を売るというか、闇落ちなのか更生したのか複雑な気持ちで、頑張って査読論文を書いていく予定です。

時間的には、大学院設置やコロナ禍対応、カリキュラム改革、教員の欠員補充、子育てなどが一段落して、研究時間が取りやすくなったのが大きいです。いろいろ同時並行で進めるのが苦手なので、社会活動や教育に影響しないよう、工夫したいと思います。

今年度のゼミ体制

うち(減災復興政策研究科)は、学部を持たない独立大学院で、教員10名に対して、1学年あたりマスター学生12名、ドクター学生2名という定員です。

教員一人に対して、一学年当たり学生約1.5人なので、指導体制は、めちゃくちゃ手厚いです。学生にとっては恵まれた大学院だと思います。

教員側からみても、ゼミ生の数は少ないと、かなり丁寧に状況が把握できます。それでも修士論文締切前は大変なのですが、ゼミ生が多い大学の先生からは、この程度でと怒られてしまいますね。


また、ゼミ生は毎年平均して来るわけではなくて、学年によって、人気のあるゼミ、そうでないゼミには差があります。1学年当たり、1名の教員が受け入れられる学生が最大3名という制限がありますが、他の先生のゼミをみても、3名の年があったり、0名の年があったりします。防災教育志向の学生が多い年もあれば、地域防災に関心を持つ学生が多い年もあるとか、そんな感じです。
まあ、どの分野も素晴らしい先生がいらっしゃいますが、あえて言うと、継続的に人気が高かったのは、設立期の室﨑先生のゼミくらいでしょうか。。。


ちなみに紅谷ゼミは人気が高い方かというと、そうでもないです(笑)。0名の年もあれば3名の年もあって、自虐的に「不人気ゼミ」と言うときもありますが、真ん中かやや下くらいだと思います。
自治体や企業の災害対応や政策という私の専門分野に関心がある学生が予想外に少なくて(苦笑)、むしろ医療や福祉などの分野で、自治体や企業のマネジメントのノウハウを参考にしたいというゼミ生が多い印象です。「来る者は拒まず、去る者は追わず」のスタンスで、ゆるくやってます。


今年のM1は、紅谷ゼミの希望者がいなかったので、今はM2以上が2名、D3が1名、全て社会人学生という体制になっています。
なので、多少、指導の余力がありますので、私の専門分野(自治体や企業の危機対応)で研究されている他大学の学生さんで、話を聞きたい方がいらっしゃいましたら、(在籍大学の指導教員ともご相談のうえ)気軽に訪問してきてください。

また、進学希望の方も、ぜひ気軽にご連絡ください。
うちの研究科は、教員が任期制だったり、推薦入試制度があったりして、ちょっと他と違うところがありますので、いろんな先生と話しておくことをお勧めいたします。

追悼 小林郁雄先生

 4日の金曜、小林郁雄先生が亡くなられたという訃報を、同僚の先生から教えていただいた。以前、ご病気という話は聞いたことがありましたが、その後、回復されたのだと思っていたので、突然のことに思わず「えっ!」と大きな声が出てしまいました。 小林先生とは、阪神・淡路大震災直後の復興まちづ...