ある先生から「留学生が、日本語の査読論文の価値が認められず、海外での就職活動に苦戦している」という相談を受けました。その大学では、事務方(海外の大学の教員採用では、教員ではなく事務方が主導することも多い)が、SSCI(Social Sciences Citation Index)掲載ジャーナルでないと実績として認めないそうです。
SSCIは、web of scienceという論文データベースがあって、それに採用されているかどうかのIndexです。自然科学では約176分野、社会科学では56分野、人文科学分野28分野、合計約250分野が、Web of Science Core Collectionの対象になっています。
https://support.clarivate.com/ScientificandAcademicResearch/s/article/000004887?language=ja
これとは別に新しい分野にはEmerging Sources Citation Index(ESCI)というのがあって、防災だと、日本のJDR(Journal of Disaster Research)が、ESCIに採録されています。
なぜ海外の大学がSCSI採択を重視しているのかというと、世界レベルでの有名ジャーナルのリストであるし、なにより世界大学ランキングが、web of scienceのデータを元に作成されているということがあります。大学のランキングを上げるには、web of scienceの採録ジャーナルの実績を持っている人を雇用するのが効果的なわけです。
日本でもweb of science掲載ジャーナルの実績を重視する大学は増えていて、教員公募の際、web of science採択ジャーナルかどうか記載するように、という大学もありました。
ただ自然科学系に比べると、社会科学系は語学や地域性があって国内ジャーナルに投稿することが多く、不利になります。ある先生からは、「社会科学系でも著書は実績として認められず、web of science掲載ジャーナルの実績のみで評価されるようになった」という話も聞いたことがあります。
留学生を集めるには、世界大学ランキングを上げるのは大切なのですが、「母国語で高等教育ができる」「その成果が新書などで一般の人も広がる」ことで「国民全体の知のレベルが向上する」という大学の社会的機能を考えると、日本語での情報発信を無視するのは、行き過ぎだと思います。
(この点では、兵庫県立大学は、研究・教育・社会活動とバランスよく評価される仕組みです)
私自身でいえば、防災という実践的な分野なので「国内の人(行政や企業の実務者など)に読んでほしい内容、役立つ論文」は日本語で情報発信すべきであり、「普遍的に通用する理論、考え方」や「海外の方に知ってもらいたい日本の事例」は英語を用いるべきだと考えています。
(ついつい、日本語で論文を書いてしまいがちなので、そこは反省です)
冒頭の話に戻すと、「日本語のジャーナルで、SSCIに相当する価値を証明する方法はないか」という相談でした。
さすがにSSCIとまでは言えませんが、J-stageという日本語論文データベースがあって、こちらに掲載されているジャーナルは、少なくとも「ハゲタカジャーナル(インチキジャーナル)ではなく、一定のステイタスが認められる」という証明にはなります。「Jstageには英語ページもあるので、こちらを示してみてはどうでしょうか」と、冒頭の相談にはお返事いたしました。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja
もし、もっと良い方法や対策などご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひお教えください。
防災分野だと、いろんな学会が乱立していて、学会のステイタス自体が落ちてきているところもあるので、日本独自の学会やジャーナルの評価の仕組み、そして英語圏が有利になりがちな世界大学ランキングに頼らない仕組みも必要です。